人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するための要件
1.欠格事由に該当していないこと
人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するためには、事業主(法人の場合はすべての役員)が欠格事由に該当しないことが必要です。
- 成年被後見人、被保佐人又は破産者で復権していない者
- 労働者派遣法の規定などに違反して、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過していない場合
- 労働者派遣事業の許可を取り消され、当該取消しの日から起算して5年を経過しない場合
など
2.財産的要件を満たしていること
人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するためには、「直近決算の貸借対照表」において次の要件を満たしていることが必要です。
- 基準資産額(資産の部の合計額から負債の部の合計額を引いた額)が2,000万円以上あること
- 現預金の額が1,500万円以上あること
- 基準資産額が負債の合計額の7分の1以上あること
なお、上記の要件は、あくまでも「直近決算の貸借対照表」において満たしている必要があります。
直近決算の貸借対照表で財産的要件を満たしていない場合
直近決算の貸借対照表で上記の財産的要件を満たしていない場合で、できるだけ早く人材派遣業(労働者派遣業)の許可申請をしたい場合には以下の方法があります。
- できるだけ早く人材派遣(労働者派遣業)の許可申請を行いたい場合は、月次決算を行い、公認会計士の先生に監査証明を出してもらい、許可申請を行う
- 次の決算までに財産的要件を満たすように財務状況を整えて、同時進行で申請書類の作成などをしておき、次の決算後すぐに人材派遣(労働者派遣業)の許可申請を行う
新たに人材派遣会社を設立する場合
新たに設立したばかりの会社(まだ決算をむかえていない会社)で人材派遣業(労働者派遣業)の許可申請をする場合は、会社設立時の資本金及び資本準備金の額で判断しますので、現金出資で資本金2,000万円の会社を設立すればすべての財産的要件を満たすことになります。
3.人的要件を満たしていること
人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するためには、「派遣元責任者」と派遣元責任者が不在の場合に対応するための「職務代行者」を必ず各1名ずつ選任することが必要です。
小規模の人材派遣会社の場合には、代表取締役が派遣元責任者、他の役員の方が職務代行者というケースが多いと思われます。
- 未成年者でないこと
- 欠格事由に該当しないこと
- 成年に達してから3年以上の雇用管理の経験を有すること
- 派遣元責任者講習を受講していること(許可申請前5年以内の受講)
など
なお、職務代行者は、派遣元責任者講習を受講する必要がなく、労務管理等の経験も必要ありませんが、その会社に常勤で専属である必要があります。
場所的要件を満たしていること
人材派遣業(労働者派遣業)を行うためには業務が適正に行うことができる事務所が必要です。
- 事務所にの広さが20㎡以上
- 同じ事務所を複数の会社がシェアしていないこと
- 個人情報等が適性に管理できる状態にあること(鍵付き書庫やシュッレッダーなど)
- 風俗営業を行う店舗が密集しているような地域でないこと
など
4.運営要件を満たしていること
労働保険と社会保険に加入していること
人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するためには、労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する必要があります。
役員や社員だけでなく、派遣労働者についても、週20時間以上30時間未満の勤務の場合には雇用保険に加入、週30時間以上の勤務の場合には雇用保険・健康保険・厚生年金に加入しなければいけません。
派遣労働者のキャリア形成支援制度を整備していること
派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めることが必要です。
- 教育訓練が派遣労働者のキャリアアップに資する内容のものであること
- すべての派遣労働者を対象としたものであること
- 教育訓練が有給かつ無償で行われるものであること
など
キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供を行う手続が規定されていること
派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供のための事務手引やマニュアル等が整備され、これらに基づいて派遣労働者への派遣先の提供が行われるものであることが必要です。
キャリアコンサルティングの相談窓口を設置していること
派遣労働者のキャリア形成を支援するためにキャリアコンサルティングの相談窓口を設置することが必要です。
個人情報が適正に管理されていること
- 個人情報を正確かつ最新のものに保つこと
- 個人情報の紛失、破壊および改ざんの防止
- 個人情報への不正アクセスの防止
- 保管する必要がなくなった個人情報の破棄または削除
など
人材派遣業(労働者派遣業)許可の流れ
1.財産的要件などの要件を確認します
人材派遣業(労働者派遣業)には、財産的要件などさまざまな要件がありますので、まずはそれをクリアしていることが必要です。
2.派遣元責任者講習を受講します
人材派遣業(労働者派遣業)の許可を取得するためには、派遣元責任者を選任する必要がありますので、派遣元責任者になる方は、許可申請に先立って、派遣元責任者講習を受講しなければいけません。
なお、なお、職務代行者は、派遣元責任者講習を受講する必要はありませんが、派遣元責任者の業務を理解してもらうためにも受講されているほうがいいかもしれません。
3.事務所の契約や会社設立などを行います
人材派遣業(労働者派遣業)の要件を満たした立地や広さの事務所を借りるなど、人材派遣業(労働者派遣業)を開業する準備を進めていきます。
4.申請書類や添付書類の作成や収集を行います
人材派遣業(労働者派遣業)の許可申請に必要な申請書などの作成、決算書、納税証明書、役員の履歴書、住民票などの添付書類を収集します。
もちろん、派遣元責任者講習、事務所の契約や会社設立などを含めて、すべて同時進行で進めていきます。
当事務所(社会保険労務士・行政書士)では、教育訓練計画の作成やその他の書類収集をさせていただきますのでご安心ください。
5.都道府県労働局を経由して厚生労働大臣に許可申請を行います
大阪府で人材派遣業(労働者派遣業)の許可申請を行う場合の提出先
大阪市中央区常盤町1-3-8
中央大通FNビル14階
大阪労働局 需給調整事業第1課
- 印紙代 12万円+5万5000円×(人材派遣事業を行う事業所数-1)
- 登録免許税 9万円
例えば、事業所が1箇所の場合には、印紙代12万円と登録免許税9万円の合計21万円となります。
なお、事業所が2箇所の場合には、印紙代17万5000円(12万円+5万5000円)と登録免許税9万円の合計26万5000円がかかります。
6.実地調査が行われます
許可申請が受理されると、その翌月に労働局の担当者の方が事務所を訪問して実地調査が行われます。
実地調査では、人材派遣事業(労働者派遣事業)を適正に行うことができる体制についての確認や派遣元責任者へヒアリングなどが行われます。
7.許可証が交付されます
申請から約3か月後に許可証が交付され、人材派遣業(労働者派遣業)を開始することができます。
人材派遣事業開始以降の手続き
1.労働者派遣事業報告
人材派遣事業(労働者派遣事業)開始後は、派遣事業を行った実績がない場合でも、毎年、下記の通り、3種類の事業報告を労働局に提出する必要があります。
なお、事業報告を提出しない場合には是正勧告が出されることがありますのでご注意くださいますよ願いいたします。
労働者派遣事業報告書
派遣した労働者の人数、派遣料金、派遣労働者の賃金、教育訓練の内容などを報告します。
なお、提出期限は毎年6月30日です。
労働者派遣事業収支決算書
決算終了後3か月以内に決算書と共に提出します。
関係派遣先派遣割合報告書
グループ企業に対してどれくらいの割合で派遣を行ったかを報告します。グループ企業へ派遣を行なっていない場合でも提出が必要です。
なお、提出期限が決算終了後3か月以内ですので、「労働者派遣事業収支決算書」とあせて提出します。
2.労働者派遣業許可の更新申請
新規で派遣業の許可を取得した場合は有効期間は3年、更新後の有効期間は5年になります。
許可の有効期間満了日の3か月前までに、労働局を経由して厚生労働大臣に更新申請をしなければなりません。
なお、更新審査手数料として「5万5000円× 労働者派遣事業所数」の収入印紙の貼付が必要です。
「キャリア形成支援制度を有すること」について許可の基準を満たす実施状況であったかを確認するとともに必要な指導が行われ、計画があっても実施されておらず、指導されても是正しないような義務違反があった場合は、許可基準を満たしていないとして許可の更新がされません。