障害年金をもらうことができると経済的にも精神的にも余裕を持つことができます
障害年金をもらうことができれば、医療費に充てたり、仕事を休んで治療に専念したりすることができますので、ご本人だけでなく、ご家族の方も含めて、経済的にも精神的にも少し余裕ができます。
障害年金の金額を確認しておきましょう
障害厚生年金 | 障害基礎年金 | |
1級 | 報酬比例の年金額×1.25 + 配偶者の加給年金額 (約22万5000円) | 約97万5000円 + 子の加算額 |
2級 | 報酬比例の年金額 + 配偶者の加給年金額 (約22万5000円) | 約78万5000円 + 子の加算額 |
3級 | 報酬比例の年金額(約58万円に達しない場合には約58万円) 3級の場合には配偶者の加給年金額はありません | 3級の場合には障害基礎年金はありません |
障害手当金 | 報酬比例の年金額×2 (約117万円に達しない場合には約117万円) | 障害基礎年金には障害手当金はありません |
障害基礎年金は1級と2級、障害厚生年金は1級から3級と一時金である障害手当金にわかれます。
なお、障害厚生年金(+障害基礎年金)になるか、障害基礎年金のみになるかは、初診日にどの年金制度に加入していたのかによって決まります。
子供がいる場合には、子の加算額(障害基礎年金1級2級)をもらえます
「18歳到達年度の3月31日までにある子」または「1級又は2級の障害状態にある20歳未満の子」がいる場合には、子の加算額として、1人目2人目は1人につき1年に約22万5000円、3人目からは1人につき1年に約7万5000円をもらうことができます。
障害年金は、今後の年金をもらえるだけではなく、実は、直近5年分の障害年金をさかのぼってもらえる可能性もあるんです(けっこう重要です)
障害年金は、原則として、初診日から1年6か月後の障害認定日以降に請求することができるのですが、実際には、例えば、初診日から5年後(障害認定日から3年6か月後)になって初めて障害年金の請求をすることも多いのが事実です。
この場合には、障害年金の請求が認められた以降の年金だけでなく、約3年6か月分(例えば、障害基礎年金2級の場合には約270万円程度)をさかのぼって、その分の障害年金を一括してもらえる可能性があります。
なお、直近5年分の障害年金をさかのぼって請求する手続きを遡及請求といいます。
しかも、もし障害年金の請求をしないままご本人がお亡くなりになった場合にはご遺族の方が請求することもできるんです(これもけっこう重要です)
仮に死亡前に障害年金の請求をしていたら、直近5年分の障害年金をさかのぼってもらえていたので、たった数か月違うだけで、死亡後は一切もらえないとなると、それはそれで理不尽ですよね…
そこで、ご遺族の方が、障害年金の請求をして認められれば、上記の遡及請求とほぼ同じように、過去にさかのぼって、その分の障害年金を一括してもらえます。
本来、もらえていたはずの未支給のご本人の年金を、ご遺族の方が、ご本人に代わって受け取るというイメージでお考えいただくといいと思います。
では、どうすれば障害年金をもらうことができるのか?
障害年金をもらうためには次の3つの受給要件を満たす必要があります(非常に重要です!)
- 初診日の確定
- 保険料納付要件
- 障害認定日において障害認定基準に該当するか否か
では、少し詳しく見ていきましょう
初診日を確定させるにはどうすればいい?
初診日とは…?
初診日とは、障害の原因となった病気やケガなどで初めて医師(または歯科医師)の診療を受けた日のことをいいます。
障害年金の金額は初診日において加入していた年金制度によって異なります
例えば、会社員の頃(厚生年金に加入している期間)に初診日がある場合には、退職後(国民年金に加入している期間)に障害年金の請求した場合でも、適用されるのは障害厚生年金となります。
上記の通り、適用される年金制度によって等級や金額が異なりますので、障害年金を申請するにあたって、初診日を確定させることは非常に大切です。
まずは、傷病名の確認と傷病の経緯を思い出すことから始めましょう
- 日常生活や仕事をするのに不都合を感じている傷病は何ですか?
- いつ頃からその症状が始まりましたか?
- その症状のために、初めて病院に行ったのは、いつ頃、どの病院でしょうか?
- もしかすると、その前にその症状のために他の病院に行っていませんか?
これらを思い出すことが初診日を確定させるためのプロセスとなります。
病院でカルテを開示してもらうこともできるんです
病院では、カルテの保存義務があり、患者さんから請求があった場合、原則として、カルテを開示することになっています。
なお、カルテを病院の外に持ち出すことはできませんので、病院の中で見せてもらったりコピーをもらったりすることになります。
受診した病院が2つ以上ある場合、初診日を証明してもらうのは最初の病院です
治療の途中で病院を変えた場合など、同じ傷病で受診した病院が2つ以上ある場合には、今の病院では初診日を証明することができません。
この場合には、最初の病院で「受診状況等証明書」という書類を書いてもらって初診日を証明してもらいます。
なお、「受診状況等証明書」は、最初の病院で、お医者さんが当時のカルテの記録に従って書いてくれるのですが、すでに5年以上が経っていて当時のカルテが残っていない場合があります。
その場合には、「受診状況等証明書が添付できない旨の申立書」に、お薬手帳や病院の領収書などを添付することになりますが、客観的な資料が残っていない場合も多いですので、初診日の確定が難しくなると思われます。
保険料納付要件
保険料納付要件とは…?
初診日の前日において
- 初診日の属する月の前々月までの直近の1年間に保険料の未納がないこと(初診日が平成38年3月31日以前の場合)
- 初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち、国民年金の保険料納付期間(厚生年金や共済の期間を含む)と保険料免除期間(学生納付特例、若年者納付猶予を含む)を合わせた期間が3分の2以上であること
のどちらかの要件を満たさなければ障害年金をもらうことはできません。
実際の保険料の納付状況はお近くの年金事務所で確認することができますので確認しておきましょう。
経済的な余裕がない場合でも「保険料未納」の状態にしない
障害年金をもらうためには保険料納付要件は非常に大切です。
もし年金を支払う経済的な余裕がない場合でも、そのまま放置して「未納」にしないで、しっかり免除申請をしておくことをおすすめいたします。
保険料納付要件を満たしていない場合には20歳より前に初診日がないかどうかを思い出してみる
上記の通り、障害年金をもらうためには、初診日の前日において保険料納付要件を満たしていることが必要です。
もし保険料納付要件を満たしていなくて障害年金をもらうことができない場合には、20歳より前に初診日がないかどうかを思い出してみるといいかもしれません。
20歳より前に初診日がある場合には、「20歳前障害基礎年金」が適用されることになりますが、この20歳前障害基礎年金の場合には保険料納付要件を問われませんので、障害年金をもらえる可能性が出てきます。
障害認定日において障害認定基準に該当するか否か
障害認定日とは…?
障害認定日とは、初診日から起算して1年6か月を経過した日のことをいいます。
そして障害認定日の時点の障害の状態が障害認定基準に該当するか否かを、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」によって判断します。
障害年金の請求には「診断書」が必要です
障害認定日から1年以内に請求 | 障害認定日から3か月以内の診断書1通 |
障害認定日から1年以上経ってから請求 (遡及請求) | 障害認定日から3か月以内の診断書1通 + 請求時の3か月以内の診断書1通 |
なお、診断書の作成費用は、病院によって異なりますが、1万円から1万5000円くらいの病院が多いようです。
例えば、初診日はA病院、障害認定日の頃はB病院、現在はC病院に通院している場合に、遡及請求する場合には…
A病院で「受診状況等証明書」、B病院で「障害認定日から3か月以内の診断書」、C病院で「請求時の3か月以内の診断書」を作成してもらうことが必要となります。
例えば、初診日はA病院、障害認定日の頃もA病院、現在はB病院に通院している場合に、遡及請求する場合には…
A病院で「障害認定日から3か月以内の診断書」、B病院で「請求時の3か月以内の診断書」を作成してもらうことが必要となります。
なお、初診日と障害認定日の病院が同じ場合には「受診状況等証明書」は必要ありません。
診断書の作成はお医者さんにすべてお任せにしない
障害年金は、書面審査によって判断されますので、診断書などの書面に書かれている内容が非常に重要です。
しかし、お医者さんが作成してくださった診断書の内容が、実際の症状の重さや生活の困難さよりも軽く記載されてしまう可能性がゼロではありませんので、診断書を作成していただく際には症状や生活状況をしっかり伝える必要があります。
診断書の内容を確認して、実際の症状などと異なっているところがある場合には、もう1度、症状などを伝えてみるといいでしょう。
精神障害の等級判定では特に診断書の内容が重要となります
障害年金では、一律の判定をするために一定の判定基準が作られています。
特に、精神障害の等級判断については、診断書の「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」の記載や「現在の病状または状態」「療養状況」「生活環境」「就労状況」「その他」の記載を総合的に判断して障害等級を判定することになりますので、診断書を作成していただく際には、お医者さんに症状や生活状況をしっかり伝える必要があります。
障害者手帳がなくても障害年金をもらうことができます
障害者手帳と障害年金の制度は別の制度ですので、障害者手帳を持っていなくても障害年金をもらうことができます。
また、障害者手帳の等級と障害年金の等級は必ずしも一致しません。
なお、障害者手帳がある場合には、障害の程度や初診日の確定のための資料となりますので、障害年金の請求をする際に障害者手帳のコピーを付けるといいでしょう。
「病歴・就労状況等申立書」は(社会保険労務士などが支援しながら)ご本人が作成します
受診状況等証明書と診断書は病院で作成してもらうものですが、病歴・就労状況等申立書は、発病日から請求時までの治療の経過、日常生活の状態、就労状況などについて、ご本人が作成する書類です。
診断書の内容との整合性も重要です。
なお、病院に通院していない期間についても記載が必要です。
障害年金の請求手続きに必要となる書類
年金請求書 | 年金事務所でもらいます 日本年金機構のホームページでダウンロードすることもできます |
年金手帳 | |
受診状況等証明書 | 初診の病院と障害認定日の病院が異なる場合 |
診断書 | 遡及請求の場合には、障害認定日から3ヶ月以内のもの+請求日以前3か月以内のもの |
病歴・就労状況等申立書 | |
通帳 | |
所得証明書 | 20歳前障害の場合 |
配偶者や子供がいる場合に追加して必要となる書類
戸籍謄本 | 配偶者、子供の氏名、生年月日や続柄の確認 |
世帯全員の住民票 | 生計維持関係の確認 |
配偶者、子供の収入を確認できる書類 | 義務教育終了前は不要 高校や大学に在学中の場合には在学証明書または学生証 |
子供の診断書 | 20歳未満で、障害等級1級または2級の状態にあることの確認 |
仕事をしていても障害年金をもらうことができます
障害年金には仕事や収入も要件はありませんので仕事をしていても障害年金をもらうことができます。
世帯の収入も関係ありません。
心臓のペースメーカーを付けている場合や人工透析をしている場合などには、初診日の確定や保険料の納付要件に問題がなければ、フルタイムで働いていたとしても障害年金がもらえると考えていいでしょう。また、遡及請求についても可能です。
精神障害、知的障害、がんなどの場合には、就労状況によって判断されることになりますが、働いているからといって障害年金をもらえないというわけではありません。
例えば、うつ病の場合に、元気な時期に正社員として働いている期間がある場合には遡及請求が認められにくくなるケースもあるようです。
フルタイムではなく短時間勤務の場合や週2日や3日程度で働いていた場合など、就労状況等を総合的に判断することになります。
なお、厚生労働省の調査によると、障害年金の受給者の3割弱(障害基礎年金2級受給者は約3分の1、障害厚生年金3級の受給者は約45%)の方が障害年金をもらいながら働いているようです。
障害年金の支給が調整される場合
20歳前傷病による20歳前障害基礎年金の場合には収入によって支給額が調整されます。
また、同じ傷病で、傷病手当金と障害年金を受給する場合にも支給額が調整されます。
障害年金の支給期間
障害年金は、初診日から1年6か月後の障害認定日の障害の状態によって障害等級が判断されます(例えば、人工透析をしている場合には、1年6か月後ではなく、透析開始日から3か月を経過した日が障害認定日となります)。
そして、障害年金の支給が決定した場合には、障害年金の請求をした日ではなく、障害認定日の属する月の翌月から障害年金の支給が始まります。
あくまでも、障害認定日の属する月の翌月から障害年金をもらうことができるようになりますので、遡及請求をすることができるということなんですよね。
なお、障害年金は、障害の状態にある間はずっともらうことができますが、老齢年金をもらえる65歳になった場合には、障害年金と老齢年金のどちらか金額が多いほうの年金を選ぶことになります。
すでに障害年金をもらっている方が老齢年金をもらえるようになった場合
この場合には
- 障害基礎年金+障害厚生年金
- 老齢基礎年金+老齢厚生年金
- 障害基礎年金+老齢厚生年金
の3つの中から支給額が多いものを選びます。
なお、すでに老齢年金をもらっている場合(繰り上げ支給を含む)には、その後に初診日がある場合には障害年金をもらうことはできません。
遡及請求するためには次の2つの診断書が必要となります
- 障害認定日から3か月以内の症状に基づき作成された診断書
- 請求時の3か月以内に作成された診断書
障害認定日から3か月以内に病院に行っていなかったり、初診日(障害認定日)がかなり前でカルテの保存期間(法定保存期間5年)を過ぎていて破棄されてしまったりしている場合には、遡及請求の難易度がかなり高くなってしまいます。
なお、障害認定日から3か月以内の症状に基づき作成された診断書がない場合でも、その前後の診断書が作成できる場合には遡及請求が認められるケースもあります。
当時の主治医の先生がその病院にいない場合でもカルテがあれば診断書を作成してもらえます
障害認定日からすでに時間が経っていて、その病院に当時の先生がいらっしゃらないこともあると思います。
その場合でも、病院にカルテが残っている場合には、他の先生に、当時のカルテに基づいて診断書を書いてもらうことができます。
ただ、診断書を書いてくださる先生は、まったく診察をしていませんので、当時の状況がわかりません。
当時の状況をしっかり伝えたうえで、診断書の作成をお願いするといいでしょう。
また、「就労状況等申立書」に当時の状況を詳しく記載する必要があるともいえるでしょう。
障害年金は書面によって審査されますので、「診断書」「病歴・就労状況等申立書」などの書面が非常に重要です
「診断書」「病歴・就労状況等申立書」などの書面に、ご本人の日常生活状況や就労状況がしっかり反映されているかどうかは非常に重要となります。
なお、障害年金の請求手続きでは、添付書類に制限はありませんので、「診断書」「病歴・就労状況等申立書」だけでは不十分な場合には、追加して資料を提出したほうがいいケースもあります。
子供のころから障害がある場合は20歳前障害基礎年金
例えば10歳の頃から障害がある場合には、20歳になるまでは障害児福祉手当や特別児童扶養手当など、20歳以降は、20歳前障害基礎年金を請求することができます。
20歳前障害基礎年金の障害認定日は、初診日から1年6か月経過した日、または、20歳になった日のどちらか遅いほうになります。
なお、20歳前障害基礎年金は、保険料納付要件は不要ですが、所得制限が設定されています。
障害年金の請求の流れ
障害年金の請求書類を年金事務所に提出します
審査期間は3ヶ月から4か月です
障害年金がもらえる場合には「年金決定通知書」と「年金証書」が届きます
2か月後に最初の障害年金が振り込まれます
不支給(障害の程度が障害等級に該当しない場合)または却下(要件を満たしていない場合)の場合には「不支給決定通知書」または「却下通知書」が届きます。
遡及請求をした場合に、遡及部分が認められず、事後重症分のみが認められた場合には、遡及請求についての不支給決定通知書、事後重症分の年金決定通知書と年金証書が届きます。
なお、決定に納得できない場合には、「不服申立」や「再裁定請求」をすることができます。
社会保険労務士
社会保険労務士は、代理人として、ご本人に代わって障害年金の請求手続きをすることができます。
また、それに付随して、カルテ等の捜索、病歴・就労状況等申立書作成の支援、診断書作成の際のアドバイスなどをすることができますので、ご本人がおひとりで進めるよりもスムーズに進むことが多く、安心できる存在であると言えるでしょう。
障害年金をもらえるようになると、経済的な不安を解消できて、精神的な安心や余裕が生まれます
障害基礎年金2級で月額6万5000円という金額は、それだけでは経済的に大きな解決にはならないかもしれません。
しかし、ご家族の方への経済的な負担ではなく、障害年金を利用して、治療を継続したり生活費に充てたりすることができることは、精神的にも負担が少なくなり、気持ちも前向きになることもあるでしょう。
自分やご家族の方が年金の保険料を何十年も毎月支払ってきているわけですので、自分や家族が困っているときに活用させてもらうのは何も間違っていませんし、そもそも、それが年金の趣旨でもあります。